5重量子ドットにおける電荷状態の検出と制御

はじめに

半導体量子ドット中の電子スピンは、量子情報処理に向けた量子ビットの候補として注目を集めています。

スピン状態の初期化、操作、読み出し等の基本的な必要操作は既に実現されており、次のステップとして量子ドット系を大規模化することが重要となっています。

私たちは5重量子ドットを実現し、その電荷状態の観測と制御を実現しました。

実験

右図左側に試料の電子顕微鏡写真と測定のセットアップを示します。円で示した位置に5つの量子ドットが形成されます。この電荷状態を上側の2つの量子ドットセンサーで検出します。

5重量子ドットでは、1つの量子ドットセンサーで5つ全ての量子ドットの状態を読み出すのが難しくなるため、2つの量子ドットセンサーを設置して読み出しています。

右図右側が2つのセンサーの動作を示すグラフで、2つのセンサーが同時に動作できることを示しています。

5重量子ドットを形成して、2つのセンサーを使って電荷状態を読み出した結果を右図に示します。

右図上側がセンサー1、センサー2のそれぞれで観測された信号を示しており、センサー1には主に左側の3つの量子ドット、センサー2には主に右側の3つの量子ドットの信号が反映されています。

この2つのグラフより電荷変化の信号を抜き出すと、左下側のグラフになり、これが5重量子ドットの電荷状態図になります。

5つの量子ドットに対応して、5つの傾きを持つ電荷遷移線が観測されています。

この結果は計算により再現することができ、再現したものが右下側のグラフになります。

またこの5重量子ドットの電荷状態は電極電圧により制御することができ、実際に電極電圧を変えて電荷状態が変化することを観測できました。

まとめ

私たちは5重量子ドットを作製し、5つの量子ドットにおける電荷状態の観測と制御を実現しました。

これらの結果は量子ビット系の大規模化、多電子・スピン物理の研究に向けて重要となります。

参考文献

“Detection and control of charge states in a quintuple quantum dot”,

Takumi Ito*, Tomohiro Otsuka*, Shinichi Amaha, Matthieu R. Delbecq, Takashi Nakajima, Jun Yoneda, Kenta Takeda, Giles Allison, Akito Noiri, Kento Kawasaki, and Seigo Tarucha,

Scientific Reports 6, 39113(2016), arXiv:1604.04426, (*equal contribution).