量子ポイントコンタクトを用いた量子ホールエッジ状態のエネルギー緩和の測定

はじめに

半導体中の二次元電子に磁場をかけた際に形成される量子ホールエッジ状態は、長い緩和長や良く定まった方向性を持ち、興味深い固体電子素子や、量子情報処理への応用が考えられています。

これらの応用に向けて、量子ホールエッジ状態における局所的な電子状態、またエネルギー緩和の様子を知っておくことは重要で、これまで量子ドットを使った実験が報告されてきました。今回私たちは、局所電子状態、エネルギー緩和を量子ポイントコンタクト(QPC)を使ってより簡便に測定できることを示し、またこの測定手法を量子ホール領域におけるホットスポットに適用しました。

実験

右図に試料の写真、模式図を示します。

QPC1を使って、量子ホールエッジ状態を変調し、これがエネルギー緩和によって変化していく様子をQPC2~5を使って局所電位を測定することにより調べました。

まず、量子ホールエッジ状態間で電子のトンネルがある場合について測定を行いました。電子のトンネルを引き起こすためにQPC1を使ってエッジ状態間に化学ポテンシャルの差をつけています。

測定結果を見てみると、実験で測定できる範囲(30 μm)で、局所電位の変化はありませんでした。この結果より、この場合のエネルギー緩和長は30 μm以上であることが分かり、これは先行研究の結果と一致しています。

次に、量子ホールエッジ状態間でエネルギーのやりとりのみがある場合について測定を行いました。この状況を作り出すために、QPC1を使って非平衡な電子分布を一つのエッジチャンネルの中に作っています。

この場合は伝播距離が増えるにつれて、局所電位が減少していることが分かります。この減少の様子より、エネルギー緩和長を見積もると3 μmとなり、これも先行研究の結果と一致しています。

これらの結果はQPCを用いて、局所電子状態、エネルギー緩和を測定できることを示しています。

(この場合の測定のメカニズムの詳細はまだ完全には分かっていないのですが、非平衡な電子分布によって生じた熱勾配が作り出す電位を検出しているのではないかと考えています。)

最後にこのQPCを用いた手法を使って、量子ホール状態においてエネルギー緩和が特異的に起こるホットスポット近傍でのエネルギー緩和を調べてみました。

測定結果を見ると、局所電位の減少が観測され、エネルギー緩和長は2 μmと見積もられました。

この緩和長は量子ホールエッジ状態間でエネルギーのやりとりのみがある場合の結果とよく似ており、ホットスポット周りのエネルギー緩和に、少なくともこの長さスケールにおいては、エネルギーのやりとりによる緩和機構が寄与していることを示唆しています。

まとめ

QPCを使って量子ホールエッジ状態における局所電子状態、またエネルギー緩和の様子を調べることができることを示しました。

この手法を用いて、量子ホール領域におけるホットスポット周りのエネルギー緩和を調べました。

これらの手法や結果は、量子ホールエッジ状態を用いた興味深い固体電子素子の開発等に役立つ可能性があります。

参考文献

“Measurement of Energy Relaxation in Quantum Hall Edge States Utilizing Quantum Point Contacts”,

Tomohiro Otsuka*, Yuuki Sugihara*, Jun Yoneda, Takashi Nakajima, and Seigo Tarucha,

Journal of the Physical Society of Japan 83, 014710 (2014) (*equal contribution).