シングルリード量子ドットを用いた量子ホール領域の局所電子状態の観測

はじめに

量子ドットと呼ばれるミクロな人工量子系を利用すれば、固体中の電子状態を高精度で局所的に調べることができます。

今回私たちは、この新しい手法を用いて、半導体中に磁場をかけた際に形成される量子ホール状態の局所電子状態を調べました。

実験

右図に試料の模式図を示します。量子ホール状態が形成されるホールバーと呼ばれる構造に、測定用の量子ドットが結合しています。

量子ドット中の準位への電子の流入を調べることによって、量子ホール状態におけるドット近傍の局所電子状態をミクロに調べることができます。

右図に量子ドットへの電子の流入の測定結果を示します。

上の2つが量子ホール状態における測定結果で、黒い線の傾きが端子に依存しており、量子ホール状態に特徴的な方向性のある電子状態が観測されています。一番下の量子ホール状態でない場合は方向性のある電子状態は観測されていません。

次に量子ドットへの電子の流入の信号より、ドット近傍の局所的な電子の温度を求めた結果を右図に示します。

量子ホール領域でない場合には試料に電圧をかけるにしたがって電子温度が上昇しているのに対し、量子ホール領域では電圧をかけても電子温度が上昇していません。

これは量子ホール状態における散乱の抑制をミクロな視点から観測した結果になっています。

右図に局所的な電圧と電子温度が磁場に対してどのように変化するかを詳しく調べた結果を示します。

磁場をかけるにしたがって、量子ホール状態が形成される様子を見ることができます。

灰色で示した各量子ホール領域では散乱の抑制を反映して、電圧降下がほとんど無く、また電子温度が低いままであることが分かります。

さらに量子ホール状態の違いによる電子の流入の信号の変化を詳しく調べた結果を右に示します。

磁場が強くなるにつれて、信号の形状がより尖ってくることが分かります。これは量子ドットの準位のエネルギーを下げたときに、ドットと量子ホール状態の距離がより遠くなったことを意味します。

この結果は量子ホール状態における電子の再配置の効果を、局所的に直接的に観測した結果になっています。

まとめ

量子ドットを用いて量子ホール状態の局所電子状態を調べました。

この結果、量子ホール状態の形成、その方向性を持つ電子状態、散乱の抑制、電子の再配置の効果をミクロな視点から観測しました。

参考文献

“Probing local electronic states in the quantum Hall regime with a side-coupled quantum dot”, Tomohiro Otsuka, Eisuke Abe, Yasuhiro Iye, and Shingo Katsumoto, Physical Review B 81, 245302 (2010).