横結合型量子ドットを用いたスピン偏極の検出
はじめに
物質のなかで電気を運ぶ電子には、電荷という性質とともにスピンという性質があります。 このスピンをうまく使えば、新しい素子等に応用できる可能性があります。
しかし、通常の電気測定ではスピンについて調べることができません。 そこで、私たちは量子ドットを用いて物質中でスピンがどれだけそろっているか(スピン偏極と呼びます)を調べる新しい手法を提案しました。
実験
右に試料の模式図を示します。 スピン偏極を測定する対象に、量子ドットが結合しています。
量子ドットの中には、スピンに依存した状態があります。 この状態への電子の流入を調べることによって、スピン偏極を調べることができます。
右のグラフに、Zeeman分離した状態を用いた測定の模式図を示します。 スピン偏極の違いによって電子の流入の様子が違うため、信号の形状が変わってきます。
磁場中でのスピン分裂したチャンネルを持つ量子細線を操作可能な偏極スピン源として用いて、信号を測定した結果を右に示します。
量子細線のスピン偏極が変わると、信号の構造が二段から一段に変化する様子を見ることができます。
量子細線の状態を、より細かく変化させて測定を行った結果を右に示します。
赤い点が0.5付近にあるのがスピン偏極が無い場合、1付近にあるのがスピン偏極がある場合に対応しています。
この振る舞いが、青線の量子細線の伝導度より予想されるものと一致するため、この手法により、きちんとスピン偏極の検出ができることが示されました。
また、同様の検出は量子ドット中のスピン一重項、三重項状態を用いれば、ゼロ磁場でも行うことができます。
右はこの検出を行うために私たちが提案した量子ドットの操作の手順の図を示しています。
まとめ
量子ドット中のスピン依存状態への電子の流入を調べることによって、スピン偏極を調べる手法の提案、およびその動作の確認を行いました。
またゼロ磁場においてもスピン偏極を調べることのできる手法を提案しました。
参考文献
"Detection of spin polarization with a side-coupled quantum dot", T. Otsuka, E. Abe, Y. Iye, and S. Katsumoto, Physical Review B 79, 195313 (2009).