量子ドット中単一電子スピンの電気的高速操作

はじめに

電子の持つスピンという性質は固体中でもその状態が比較的長い間保たれるという特徴があり、量子ドット中に閉じ込められた電子のスピンは将来の量子情報処理(量子性を利用した新しい情報処理)に向けたビット、量子ビットの候補として研究が進められています。

このスピンを操作する方法として、これまで電子スピン共鳴と呼ばれる手法を利用した方法が実現されてきました。今回、この方法を改良してスピンの操作を高速化し、核スピン等の擾乱の影響に打ち勝ち、高精度の操作を実現しました。また電子スピン共鳴によらないスピンの回転手法も提案、実現しました。

実験

右図左側に試料の電子顕微鏡写真を示します。電子スピン共鳴に用いる振動磁場を、図中黄色の微小磁石と高周波を使って作り出します。この磁石に工夫を凝らして強い振動磁場を作り出します。

実際に高周波を使って観測した電子スピン共鳴が右側です。共鳴磁場と周波数が比例関係にあるのが分かります。

次にスピン回転操作のスピードを評価するために、ラビ振動と呼ばれる振動を測定しました。高周波の強度を強くすることにより、右図左側のように、これまでにない127 MHzまでの高速回転操作を実現しました。

またこの高速化の結果、試料母材中の核スピンの影響に打ち勝ち、右側のようにシェブロン形状と呼ばれる特徴的なパターンを観測することができました。

また微小磁石をパルス電場を用いれば、高速に磁場の大きさを変化させ、これにより電子スピンの回転操作(z軸周り)を実現できます。

私たちは実際にこの操作を行い、右図のように54 MHzまでの高速回転操作を実証しました。

まとめ

私たちは微小磁石に工夫を凝らして、電子スピン共鳴を用いた量子ドット中スピンの回転操作の高速化を実現しました。また磁場の直接パルス変調によるスピンの回転操作も実現しました。

これらの結果は量子ドット中の電子スピンを用いた量子情報処理の実現に向けて重要となります。

参考文献

“Fast Electrical Control of Single Electron Spins in Quantum Dots with Vanishing Influence from Nuclear Spins”, Jun Yoneda*, Tomohiro Otsuka*, Takashi Nakajima, Tatsuki Takakura, Toshiaki Obata, Michel Pioro-Ladrière, Hong Lu, Christopher Palmstrøm, Arthur C. Gossard, and Seigo Tarucha, Physical Review Letters 113, 267601 (2014), arXiv:1411.6738, (*equal contribution).