量子ドットを用いた微細構造中局所電子状態の高速プローブ
はじめに
微小な素子中での局所的な電子状態は、科学的な観点やデバイス応用に向けて注目されています。この局所電子状態を調べるために、これまでに様々な測定手法が開発されてきました。
今回私たちは量子ドットという微小な構造を用いて小さい領域での電子状態を観測する手法を、高周波測定技術を用いて改良し、その優れた特性を実証しました。
実験
右図左側に試料の電子顕微鏡写真を示します。青丸の位置に測定用の量子ドットが形成されます。この量子ドットへの電子の移動を調べることによって、ドットが結合している領域の電子状態の情報を得ることができます。
量子ドットへの電子の移動は、高周波の反射測定により調べます。この新しい測定手法により、5マイクロ秒という短い時間(従来の1/1000程度の時間)で、電子たった1個の移動を検出することができます。
実際に電子の移動を測定した結果が右側で、電子が高速に移動する様子が見えています。
次に、測定用の量子ドットの下側に別の量子ドットを形成して、内部の局所電子状態を調べました。この結果、別の量子ドット内部の離散的なエネルギーを持つ電子状態を検出することができました(右図左側の図の黒い線)。
またこの測定シグナルはバイアス電圧や、温度によってあまり影響を受けないことが分かり、従来の測定手法よりも外乱に強い、優れた手法であることが分かりました。
さらに高速な測定手法であることを活かして、測定対象量子ドット内の電子の動きを右図右側のように直接測定することも可能であることを示しました。
まとめ
私たちは量子ドットを用いた局所電子状態測定を高周波測定技術と組み合わせ、改良しました。そしてその高速動作、外乱に強い性質を確認し、良い測定手法であることを実証しました。
これらの結果は微小素子中の局所電子状態の解明、またその電子デバイスへの応用に向けて重要となります。
参考文献
“Fast probe of local electronic states in nanostructures utilizing a single-lead quantum dot”,
Tomohiro Otsuka, Shinichi Amaha, Takashi Nakajima, Matthieu R. Delbecq, Jun Yoneda, Kenta Takeda, Retsu Sugawara, Giles Allison, Arne Ludwig, Andreas D. Wieck, and Seigo Tarucha,