少数電子量子ドットにおけるファノ効果

はじめに

近年の半導体加工技術の進歩によって、量子力学の効果が現れるような微小な系を人工的に作製することが可能となっています。 このことは、微小な思い通りの実験系を作製して量子力学の実験をするという「実験量子力学」が可能となってきたことを意味します。

このような系の一例として量子ドットと呼ばれる構造があります。 量子ドットは電子を微小な領域に閉じ込めたもので、離散的なエネルギー準位などの量子効果を示します。

私たちはこの量子ドットを他の構造と組み合わせた「量子ドット複合系」における現象に興味を持っています。 ここでは量子ドットと量子細線(量子効果が現れるくらい小さな幅を持つ電子の流れ道のことです。)を組み合わせた系の実験についてお話します。

実験

右に実験に用いた試料の模式図と電子顕微鏡写真を示します。量子細線の上側に量子ドットがくっついています。

量子細線と量子ドットはGaAsとAlGaAsの界面に閉じ込められた電子を、微細加工により作製した金属電極を使って操作することにより形成されます。

右のグラフは量子ドット内の電子数と量子細線の幅を変えた際の量子細線の伝導度を示しています。 横軸は量子ドット内の電子数を操作する電極の電圧を、縦軸は量子細線の幅を操作する電極の電圧を表しています。

量子ドット内の電子数が変化するところで伝導度が急峻に変化しています。これは量子細線による電荷検出効果とFano効果と呼ばれる干渉効果の結果です。

量子ドット内の電子数が変化すると、量子ドット周辺の静電ポテンシャルが変わり、これが量子細線の伝導度に影響を与えます。これが電荷検出効果です。

一方、Fano効果は量子ドットを経由する経路と、量子細線をそのまま通過する経路とが引き起こす干渉効果です。今回の実験ではこのFano効果に注目しました。

右にFano効果のみが発現している部分を拡大した図を示します。量子細線の状態を操作すると、伝導度の変化の様子が変わっています。

橙線と緑線に沿って伝導度の変化を見た図を、右下に示します。橙線では右下がりの波形だったものが、緑線では右上がりの波形となっていることが分かります。

この結果は、量子細線の状態によって、Fano効果による波形が変化していることを示しています。

私たちはこの波形の変化を説明するために右図のようなモデルを考えました。このモデルでは量子ドットが複数の量子細線中の点と結合し、量子ドットと量子細線が有限の幅を持って結合していることを取り入れています。

このモデルにおける伝導度を計算した結果を右下に示します。横軸は量子ドットのエネルギー(実験では電極の電圧に対応します)、縦軸は透過確率(伝導度)を表しています。いくつかの線がありますがこれは量子細線のエネルギーを変えた際の計算結果です。

この結果を見ると、量子細線の状態の変化とともに波形の様子が変わっており、実験結果とよく似たものとなっています。

この計算の意味していることは、「量子細線の状態を変化させると波動関数が変化し、量子ドットに結合している点の間の位相が変わってきます。このため干渉の様子が変化し、Fano効果の波形が変わります。」ということです。

まとめ

量子細線と量子ドットが結合した試料における伝導度を測定したところ、量子細線の状態の変化とともにFano効果の波形が変わる様子が観測されました。

この実験結果を量子細線と量子ドットが有限の幅を持って結合しているモデルを用いて説明しました。

参考文献

"Fano Effect in a Few-Electron Quantum Dot", Tomohiro Otsuka, Eisuke Abe, Shingo Katsumoto, Yasuhiro Iye, Gyong L. Khym, and Kicheon Kang, J. Phys. Soc. Jpn. 76 084706 (2007).