横結合型量子ドットにおける励起状態の観測

はじめに

量子ドットの状態を電気を使って調べるためには、量子ドットを電極に結合させます。 これまでは二つの電極を量子ドットに結合させた測定がよく行われてきましたが、近年、一つの電極のみを結合させた横結合型量子ドットにおける測定も可能となってきました。

しかし横結合型量子ドットにおいては、量子ドット中の状態を調べる手法が完全には確立していません。 例えば量子ドット内の励起状態のエネルギーを正確に調べる方法はこれまでありませんでした。

ここでは、励起エネルギーを調べるために私たちが行った新しい手法についてお話しします。

実験

右に実験に用いた試料の電子顕微鏡写真を示します。 量子ドットが右上の量子細線にくっついています。

左側にも電子の細い通り道が作られていますが、これを使って量子ドットの中の電子数を調べます。

Elzermanさんたちは2004年に、方形波電圧を量子ドットに加えれば、励起状態を見ることができることを報告しました。

励起状態があると右の模式図のように、量子ドットへの電子の流入が増えます。 この様子が右のグラフのように、量子ドットの準位を操作したときに測定されることになります。 暗くなるにつれて電子の流入が増えています。

ここで少し暗い部分の幅(図中の矢印)が量子ドットの軌道の励起エネルギーに対応します。

残る課題は、この幅がどれだけのエネルギーに対応しているのかを調べることです。 このためにはエネルギーの基準となるものさしが必要です。

ここで私たちは短い量子細線に電圧をかけた際に生じる、右の模式図に示すような非平衡な電子のエネルギー分布をものさしとして用いることにしました。

右のグラフはこのものさしがちゃんと動いていることを確認したものです。 これを使って正確に励起エネルギーを求めることができました。

さらに私たちはこの手法の有効性を確かめるために、スピン励起状態の測定を行いました。 右にスピン励起エネルギーの磁場依存性を示します。 磁場とともに励起エネルギーが増える様子を見ることができます。

この傾きがこれまで報告されている値と一致することより、新しい手法の有効性を確かめることができました。

まとめ

電圧をかけた短い量子細線を電極として利用することにより、横結合型量子ドットにおいて励起エネルギーを正確に求める手法を示しました。

この手法を用いてスピン励起エネルギーを測定することにより、その有効性を確かめました。

参考文献

"Excited-state spectroscopy on a nearly closed quantum dot via charge detection", J. M. Elzerman, R. Hanson, L. H. Willems van Beveren, L. M. K. Vandersypen, and L. P. Kouwenhoven, Applied Physics Letters 84, 4617 (2004).

"Excited-state spectroscopy on a quantum dot side coupled to a quantum wire", T. Otsuka, E. Abe, Y. Iye, and S. Katsumoto, Applied Physics Lettters 93, 112111 (2008).